<国民の危機意識の共有が鍵!>

 自然災害、ウイルス・感染症など有事と戦う際の最大の障害の1つは災害心理学でいう「正常化バイアス」です。すなわち、人間には、平時はもちろん、有事に臨んですら、「自分は大丈夫!」「まだ大丈夫!」と自分を落ち着かせる非常に強力な心の機能が備わっています。人間の心を平常に保ちパニックを起こさせないようにするためのとても大事な機能なのですが、この「正常化バイアス」はまさに両刃の剣です。

 この機能が非常に強力であるために、人間は危機を舐めてかかり油断してしまいます。平時に有事の備えをほとんどしないばかりか、有事が起きてからでさえ余裕をかまして一致団結せず、犯人探しに明け暮れて人の批判ばかりするような事態に陥ります。「正常化バイアス」のせいで危機を直視できず、国民全体が「こんなの大したことじゃない」と思い続けたがる結果、国を挙げて国難に当たることは非常に困難を伴うのです。

 この「正常化バイアス」は人類共通ですが、ウイルス・感染症の脅威を戦争や自然災害並みの脅威と捉えている欧米諸国と比べても、我が国の法制度は明らかにウイルス・感染症を軽視しており、緊急事態宣言に欧米諸国並みの強制力は伴っていません。

 したがって、我が国では強制力を伴わない自粛要請により、医療崩壊につながる感染爆発を防ぐための接触減を実現しなければならず、その成功の鍵は国民の危機意識の共有にあります。何とかして「正常化バイアス」を乗り越えて、国民に正しく危機を認識してもらわなければなりません。

 現在は、COVID-19との戦いの真っ只中なので、平時よりも国民の危機意識が強いことは間違いありませんが、それでもCOVID-19を防遏するのに十分な危機意識を限時点で国民が共有しているかは大いに疑問です。

 現時点において、ほとんどの国民は、我が国がCOVID-19により最大で約100万人の感染死、最大で約1万5千人の経済死者増(注1)という現実的な危険に直面していることを理解していません。頭では理解していても行動に結びついていない国民も多数いると思います。

 「正常化バイアス」を払拭して国民の理解と協力を最大限得るための発信、国民への働きかけを今より格段に強めていく必要があります。政府与党が講じる新型コロナウイルスの感染症対策や経済対策が期待される効果を発揮するかどうかはこの一点にかかっていると言っても過言ではありません。

(注1)

我が国の自殺者総数

ピークは2003年の3万4427人

最小は昨年(2019年)の1万9959人

バブル崩壊後の過去最大の自殺者総数 = 昨年より約1万5千人の経済死者増

<敢えて死を語る!>

 医療崩壊につながる東京の感染爆発を防ぐためのこれまでの要請(注2)は、タイミングの問題はあれ基本的に正しい方向であると考えます。しかしながら、これらの要請が国民にしっかりと受け止められて期待どおりの効果が上がるためにはまだまだ国民の危機意識の共有が不十分であると言わざるを得ません。

(注2)

政府の専門家会議の要請

「接触8割減」

←実現するため「『3密・夜の街』10割カット、外出8割カット、仕事4割以上」

安倍総理の要請

「極力8割、最低7割の接触減」

←追加して「出勤者を最低7割減」「接客を伴う飲食店の全国的な利用自粛」

 だからこそ、赤沢は、国民の危機意識の共有による「接触8割減」の実現などを目指して、一貫して党の内外で「感染死」と「経済死」というショッキングで直接的な表現を使い続けています。

 赤沢の整理によれば、党政調の新型コロナウイルス関連肺炎対策本部(以下「対策本部」)は「感染死」を減らすための会議であり、党政調の経済成長戦略本部・新型コロナウイルス関連肺炎対策本部合同会議(以下「合同会議」)は「経済死」を減らすための会議ということになります。

 赤沢の認識によれば、当初は対策本部の動きばかりが目立ち、「経済死」の脅威が十分認識されていない危機的な状況がしばらく続いたので、赤沢は合同会議で下記(2)の内容を繰り返し説明しました。その後、合同会議の議論もようやく軌道に乗り、4月6日(月)に閣議決定された資金繰り支援、税金・保険料猶予、現金給付などを内容とする経済対策(令和2年度補正予算)に結実しました。

 一方、その頃には、今度は対策本部の議論が低調に推移していました。このままでは、4月3日(金)に政府の専門家会議のクラスター班の数理分析担当の西浦博北海道大学教授が提言した「医療崩壊につながる東京の感染爆発を回避するのに必要不可欠な約8割の接触減」の実現は到底覚束ないとの危機感のもと、赤沢は、対策本部において「政府が緊急事態宣言を発令し、それに基づいて都道府県知事が国民に対し法的根拠のある強力な自粛要請を行うよう与党が強く働きかけるべきである」旨発言しました。その後、4月7日(火)に政府の緊急事態宣言が発令される運びとなり、4月10日(金)には東京都が休業を要請する6つの業態や施設を公表しました。

 ここで2点指摘しておきたいと思います。

 第一に、今後COVID-19の防遏に成功するまでの間、感染死と経済死を減らすための取り組みをバランス良く、しかもタイムリーに続けなければならないということです。政府の専門家会議と良く連携して緊急事態宣言からクラスター対策に適時適切に移行するとか、複数回の現金給付を適時適切に行うなどなどです。予算の制約などから思い切った対策を打つことに二の足を踏みがちな政府の背中を強く押すのがまさに与党の役割です。この点は、全体の流れを見られる政調会長をはじめとする政調幹部の皆様に特にお願いしておきたい点です。

 第二に、緊急事態宣言の発令によりようやく法的根拠を伴うものになったとはいえ、強制力のない自粛要請しかできない我が国の法体系のもとで、接触8割減を実現するのは並大抵のことではありません。現時点では目標達成にほど遠い現状にありますが、政府与党一体となって、断固として接触8割減を実現するための取り組みを強化していかなければなりません。接触8割減が達成できるまでは医療崩壊への道をまっしぐらに突き進んでいるのだという厳しい認識のもと、覚悟を持って国民の理解と協力を取り付けるためには何をすべきかをとことん考え抜きかつ果断に行動しようではありませんか。

(1)「感染死」

 COVID-19については、感染者の8割が軽症で済むことが強調され過ぎた嫌いがありますが、国民に伝えるべきは、むしろ感染者の2割が重症化し、感染者の2〜3%は人工呼吸器が必要になるという事実です。

 この事実に加えて、もし我が国で医療崩壊が起こればどれほど深刻なのかを「最大で約100万人の感染死」という数字で国民に訴えることで国民の危機意識の共有を図るべきであると考えます。

 すなわち、医療崩壊が起きて人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)が足りなくなれば、我が国におけるCOVID-19の致命率はスペインやイタリア並みの約10%に跳ね上がります。

 また毎年我が国で約1000万人がインフルエンザに罹患していることに鑑みれば、ひとたび医療崩壊が起きた我が国のCOVID-19の罹患者数が1000万人を下回る保証はありません。

 医療崩壊が起きた時のCOVID-19の約10%の致命率と我が国におけるインフルエンザ並みの約1000万人の罹患者数を掛け合わせれば、「最大で約100万人の感染死」という最大被害想定が導かれます。

 この数字は、政府の専門家会議のクラスター班で数理分析を担当しておられる西浦博北海道大学教授が、4月11日(土)放送のNHKスペシャル「新型コロナウイルス 瀬戸際の攻防」の中で「日本でも何十万人ぐらいの死亡者数が簡単に見込まれます」と発言しておられるのと軌を一にするものです。

 西浦教授は、同番組の中で、「何十万人ぐらいの死亡者数が簡単に見込まれることをしっかりと国民にお話しするのが自分の義務である」旨述べておられます。赤沢も、全く同感であり、「何十万人ぐらいの死亡者数が簡単に見込まれること」、赤沢の言葉で言う「最大で約100万人の感染死」を国民に繰り返し、繰り返し、しっかりと説明することにより、「正常化バイアス」を払拭しなければなりません。

 接触8割減を確実に実現するために期待されるレベルの国民の危機意識の共有を実現するには「このままでは医療崩壊が起きる」とか、「医療崩壊が起きたら大変だ」と伝えるだけでは全く不十分で、もし医療崩壊が起これば最大で約100万人の同胞が死ぬ現実的な危険があることを率直に国民に伝えて最大限の協力を仰ぐべきです。

 「最大で約100万人の感染死」は、南海トラフ巨大地震・津波の想定死亡者数の3倍以上、大東亜戦争の戦没者数の約3分の1、まさに世界大戦並みの有事なのだということを国民に知らせて協力を求めないのであれば、政府与党がベストを尽くしたことには決してならないと考えます。

(2)「経済死」

 経済の混乱も国民の生命を奪うことをしっかりと国民に説明すべきです。

 しかも、後ほど述べるとおり、COVID−19の感染死を減らすための取り組みによりどれほどの経済死が引き起こされたのかは事後的に十分検証可能であることはいくら強調しても強調し過ぎることはありません。

 正常化バイアスも手伝って、これまでのところ、多くの国民は、経済死の脅威を現実のものとして理解していません。だからこそ、「他人は金をもらうのになぜ自分はもらえないのか?」というレベルの大きな不満が国民の間に鬱積しているのだと思います。

 物の本によれば、諸外国において経済の混乱が国民の生命を奪った例は数多あります。

 1991年のソ連の崩壊により共産主義的な雇用と社会保障を奪われたソ連の青年男子は、その数が約970万人減り、その平均寿命はわずか3年のうちに6歳縮みました。

 2009年にIMF(国際通貨基金)管理になる直前の2007年からの緊縮財政によりギリシャの自殺率はわずか2年のうちに24%アップし、2008年から3年のうちに乳幼児死亡率は40%アップしました。

 2008年のリーマン・ショックなどを引き起こす2007年からのサブプライムローン問題により、家賃を1度でも滞納したことのある米国民は滞納経験のない米国民の約9倍うつ病の発症率が高くなり、また薬を飲みさえすれば十分コントロールできるはずの高血圧や糖尿病による腎不全で緊急搬送される割合が1.5倍になりました。

 我が国においても1998年頃から悪化したバブル崩壊の影響で、失業や倒産、非正規職員が増加し、それがストレスとなり、「うつ」につながることで、自殺が急増しました。1997年から1998年にかけて「経済・生活問題」による自殺者数は、3556人から6058人へと約1.7倍に急増したのです。それから5年後、自殺者総数3万4427人のピークを迎える2003年には経済問題を原因とした自殺者数も8897人のピークを迎えました。

 繰り返しますが、経済の混乱は確実に国民の生命を奪うのです。このことを国民に繰り返し、繰り返し、しっかりと説明することにより、「正常化バイアス」を払拭しなければなりません。そのうえで国民の理解と協力を仰ぐべきです。

 我が国の自殺者数は、ここ10年連続で前年を下回り、2019年には1978年の統計開始以来初めて2万人を下回り1万9959人となりました。したがって、ここ10年続いた我が国の自殺者数の減少傾向が打ち止めとなり、もし本年以降反転するような事態となれば、今後増加する自殺者数の増加分はそっくりそのままCOVID-19を防遏するための取り組みにより引き起こされたものであることになります。もしバブル崩壊後のピーク時と同程度の自殺者総数となれば、赤沢の言う「最大で約1万5千人の経済死者増」が現実のものとなります。

 以上が、(2)の冒頭で経済死は事後的に検証可能と述べた理由であり、事後的に感染死の数と経済死の数が明らかになり、感染症対策と経済対策のバランスが厳しい検証に晒されることは間違いありません。赤沢が、党の内外において、一貫して「感染死も経済死も減らさなければならない」と主張し続けている理由がこれです。

<いくつかの具体策>

「感染死」と「経済死」をいずれも減らすために以下の諸施策は検討に値すると考えます。

(1) 「感染死」対策(=医療崩壊の回避策)

  1. 医療体制の強化
    ・抗体検査(免疫を獲得した医療関係者を最前線へ!)
  2.  接触8割減
    ・公共交通機関運賃の大幅値上げ(医療関係者などには定期券支給!)
    ・テレワークの普及推進(特に、国会と官公庁!)

(2) 「経済死」対策

  1. 消費税減税
    ・前回の税率引き上げの経緯を踏まえた本則税率の8%未満への引き下げ
  2. 複数回の現金給付
    ・全国民への一律10万円給付ほか
  3.  公共料金の支払免除
    ・支払猶予に加えて、公的負担による全額免除又は自粛要請によるかかり増し経費の事後的な公的負担による支払免除
  4.  マイナンバーの活用促進
    ・給付もの全般の手続き簡素化・迅速化(台湾の好事例に学ぶ!)

以上

 

令和2年4月13日     

衆議院議員 赤澤 亮正